心筋梗塞から心臓を守る幹細胞 2011.7 日刊ゲンダイ
生まれてから死ぬまで拍動を続ける心臓は、心筋という筋肉でできている。心筋の外側を心外膜が覆い、さらにその外側を心膜が覆っている。 英ユニバーシティ・カッレッジ・ロンドンのポール・ライリーをリーダとする研究班は、その心外膜に、心筋の再生に関係する幹細胞がたくさん存在することを突き止めた。幹細胞は、アミノ酸が結合したペプチドによって、損傷した心筋の修復に動くという。 実験室のマウスに前もってサイモシンを注射しておき、試験的に心筋梗塞を起こさせると、発作から24時間以内に幹細胞が活動を始め、心筋を修復する。「人の場合も、幹細胞を用意しておけば、心筋梗塞を乗り越えられる。そのための錠剤を飲めるようにしておけば、心筋梗塞への準備も十分だ」と、ポール・ライリーは言う。
2010年、京都府立医科大学で、心筋梗塞により心筋が壊死して収縮能力を失った患者の(61歳)の心臓に対し「幹細胞」を注入、機能を回復させることに挑戦。壊死した心筋細胞に注入された幹細胞が、健康な心筋細胞に変身することで、心臓を蘇らせることを狙った世界初の試み。
NHK追跡AtoZ【心臓再生医療京都府立医科大学幹細胞心筋梗塞】詳細情報
日本は医療機器の審査に時間がかか過ぎていて、承認されるのは米国より平均2年遅い、といわれている。たとえばステントグラフトと呼ばれる腹部大動脈瘤の治療のための人工血管が承認されたのは、2年前で、欧米より10年ほど遅れていたし、昨年承認された難治性潰瘍などに使われる治療機器は実に15年遅れだ。 そんな中、心筋梗塞や狭心症の治療機器であるザイエンスVという薬剤溶出ステントが、昨年1月に承認された。米国の承認から2年遅れだが、それでも承認されているのは訳がある。治療を担当した湘南鎌倉総合病院副院長で循環器科部長の斉藤茂氏に聞いた。「今回の治験は、労働厚生省と米食品医薬品局など日米の医薬審査当局が連携して、日本で初めて日米の同時審査が進みました。と実はこの治験スタート時点では、ザイエンスVの一世代前のタキサスが日本では未承認。しかし、タキサス、ザイセンスVと順番に承認を受けていては、世界との”周回遅れ” を解消できません。そこで編み出されたのが、今回のような日米共同の枠組みです。」労働厚生省や米食品医薬品局など日米の担当医師などが、年一回のミーティングを重ねたという。「綿密な調整を行って、ザイセンスVを使う日本人とタキサスを使う米国人を比較するという治験方法が決まりました。その比較結果を労働厚生省に申請し、承認が得られたのです。」一世代前のタクサスの承認を待たず、ザイエンスVの承認を急いだのは、もちろん治療効果の高さが歴然だからだ。「薬剤溶出ステントなどの血管内治療で要注意なのは”ステント血栓症”です。ステント治療を行っても、その部分が再狭窄を起こすことがあり、これをステント血栓症と言いますが、国内でザイエンスVを使った患者さんは、2年の観察期間中、一人もステント血栓症を起こさなかったのです。タキサスを使った米国人は2.4%、別の治験のザイエンスVを使った米国人は1.2%でした。」日本人のステント血栓症が0というのは、最新医療機器の効果と人種差別があいまったものだろうが、それにしてもすごい。今回の日米協力は日米医療機器規制緩和(HBD)と呼ばれる。斉藤副院長は「HBDを使えば、承認の遅れを解消できる。」と期待する。そうなると承認の遅れから”欧米の半分”しか使えない日本の医療機器をグンと増やすことができる。 HBDを使った日米共同治験は、足の血管が詰まる閉塞性動脈硬化症に使われるステントでも始まっている。今後さらに増えるみとうしだ。やればできるのだから、労働厚生省はもっと頑張らないとだめだ。